学生指揮者としてのBe a Music……っていう話
Be a Music
自分が指揮を振り続けている中でたどり着いた結論のうちの一つです。
音楽になれ。
指揮者として曲を完成させるにあたって必要なのは、曲の完成点を自分の中で明確に定めて、そしてそれに向かってバンド現状と理想とのギャップを計測して練習内容にフィードバックしていくことです。
……というのは、練習を運営する人としての指揮者の話。
曲を振る人としての指揮者のゴール地点こそが「Be a Music」であると思っています。
つまり、曲になって振るのです。
本番で曲が流れ始める。
その瞬間指揮台に居るのは人間ではなく、その曲自身なのです。
指揮者としては、その曲が始まる時には、自我はなく、その曲に心身ともにその曲で満たすのです。
時に激しく、時にやさしく。
あるときには涙を流し、またあるときには怒り、そして笑顔になり……
身体のすべてを使って曲を表現する。そこに自分はいない。
それこそがBe a Musicという事であり、指揮が目指すところであると思っています。
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さて抽象的な話が続きました。具体的な話に移りましょう。
指揮者として曲の解釈をするというのはおそらく当然のことで、学生指揮だろうとそれは変わらないでしょう。
問題はそれをどう伝えるのかという話です。
そして結論から言うと、それの伝え方として手っ取り早い方法が「自分がその曲になってしまう」という話なわけです。
ですが、体を溶かしたりして実際の音になるわけにはいきませんから、その表現手段として「棒振り」というものを介すというわけです。
自分の中高時代の恩師の先生がおっしゃっていた事ではありますが
「指揮は顔8割棒2割」
だそうです。
その言葉を私なりに解釈・アレンジした結果がコレです。
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で、一応学生指揮者論ですから、これを可能にする学生指揮者としての練習とかっていう話を書かなきゃいけません。そうじゃないと備忘録にもならないので。
最初は「一通り曲が通るように完成させる」ことです。
まずは味気なく。言い方を変えれば誰が振っても大丈夫なレベルで、ひとまず曲が通るレベルまで仕上げましょう。
プラモデルでいう所の仮組み、絵描きでいう所のラフ画というやつでしょうか。自分はどっちもやらないので詳しくはわからないですが……
そこまで出来るようになったら、自分の考えを投入していきます。
もちろん練習中にです。最初はちゃんと言葉で表現しましょう
――つまり、曲が通るようになる前の段階で、自分が曲に対してどのようなイメージを持っているかを言葉に出来ていなければなりません。
そして、そのイメージを何度でも伝えます。イメージ通りに吹いてもらえるまでは何回でも言います。ここで大事なのは「言う」ことです。覚えてもらいましょう。
一番良いのはその場で楽譜にメモを取ってもらえることですが……
そして、イメージ通りの音を出してもらえるまで根気よく練習します。ただその辺は他の練習時間との兼ね合いもあるので、程よく妥協しながら進めていきましょう。
で、自分がそれを表現する場はいつか。
自分はそれを本番でしかやりませんでした。
正確には、「リハーサルでその片鱗を見せて、本番ですべてを発揮する」という方式をとっていました。
何故か。
単純な理由が2つあります。
○本番の段階では、正直指揮者が居なくても大丈夫なレベルまで皆曲に慣れているから
○曲になりきった指揮は正直見にくいから
です。
曲になりきった指揮って言うのはぶっちゃけ踊っているのと変わりがありません。無茶苦茶見にくいです。
しかしながら曲は空中分解することもなく(たまにあるけど)、今まで通りのクオリティで通ります。そして、それを可能にするのが1つ目の理由です。
曲になりきった指揮は、指揮として見にくい一方で曲の雰囲気を最大限に表現できます。すなわち、既にある程度のクオリティが、指揮者が居ない状態で担保されているのであれば、それに指揮によって曲の雰囲気を追加することによって、本番マジックみたいな言葉で表現される「練習の時より何倍も良かった演奏」を、意図的に引き起こすことが可能になるのです。
そして、さらに本番に居ついてる“魔物”を味方に付けられれば、学生指揮者だろうと顧問の先生に1回くらいは勝てるかもしれません。
さて、これについても具体的な話をしなければなりませんね。
まず本番の振り方――曲になりきって振る方法というのに、正解は無いでしょう。
自分が思う音楽を、自分の体で表現するのですから、自分の思うその振り方こそが答えです。
しかし、この振り方は「練習」が必要です。でも曲になって振るなんて言うのは、いわば振付けみたいなものなので当然と言えば当然です。
練習自体は人知れずでもいいですし、誰かにだけ見せておくのもいいかもしれませんね。でも本番一発勝負だけはやめておきましょう。
また、練習中にむやみにその振り方をするのも良くはないです。それは単純に見にくい指揮だからです。前述の通り、しっかり練習して臨んだ本番だからこそ見にくい指揮で大丈夫なんだということは覚えておきましょう。
一方でリハーサルで本番指揮の片鱗を見せるのは大事です。もしかしたら見にくい指揮で大丈夫だろうと思っていた箇所がグダったり、また、実際やってみたら思ったほど良い表現ではなかったりすることがあります。リハーサルなら失敗しても許されますから、積極的にトライしてみて、そして本番までに修正をするようにしましょう。
注意点としては、「テンポの変わり目等の重要箇所の指揮は絶対に変えないこと」です。どんなになれた曲であっても指揮者が必要なのはこの部分です。曲になりきるのを優先しすぎて、この部分までまるっきり変えてしまうと曲が通らなくなります。
ですが言い換えれば、これをあらかじめ振付けとして「曲になりきる指揮」の中に如何に組み込めるかが腕やセンスの見せ所じゃないでしょうか。
また、あまりにも見にくい指揮であると曲の表現どころではなくなります。そこで必要になるのが指揮法です。これもまた、上手く振付けに組み込むことで「そこまで分かりにくくない指揮」でかつ「曲になりきる指揮」を振ることが可能になります。
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長くなりましたが……
Be a Music
私が学生指揮をしていてたどり着いた結論のうちの1つのお話でした。
ゆめみどり